TOC(theory of constraints)は 「システム改善のツール」である。 TOCは、現場での個別の工程の 生産性や品質の改善ツールではない。 あくまでも企業とか工場全体を 一つのシステムと見なし、 そのシステムの目的を達成するための 改善手法である。 企業の究極の目的は 「現在から将来にかけて金を儲け続けること」 である。 企業が金を儲けるには、 スループットを増やすか、 在庫を減らすか、 経費を減らすという3つの方法しかない。 TOCでは、 このうちスループットを増やすということが 最も重要なことで、 次いで在庫を減らすことであり、 経費節減は重要性が低いと考える。 スループットとは 販売を通じて金を儲ける割合のことで、 売上げから資材費を引いた金額に等しい。 たとえば、 ある企業が1台100万円の販売価格で、 資材費が30万円の製品を1種類だけ 売っているとする。 その会社には、 1台売るたびに70万円の利益が入ってくる。 つまりスループットとは、 製品を売ることによって得られる 利益の増分のことである。 では、この製品を1年間で100個売ったら、 利益が7000万円になるかと言えば そうはならない。 資材費以外に工場や販売チャネルを 維持するための固定的な経費がかかるからだ。 仮にこの企業の固定費が 年に5000万円とすれば、 利益は7000万円から5000万円引いた 2000万円ということになる。 そこで工場のスループットを最大化するには、 実際に顧客に売れる製品のアウトプットを 最大にすればいいことになる。 一見、単純なことに思えるかもしれないが、 実際にはさまざまな要因が重なって 非常に複雑な問題になる。 まず工場では、 製品ができるまでに多くの工程を 通っていくが、そのどこかが 必ずボトルネックになっている。 このボトルネックの問題を 複雑にしている要因は、 統計的にバラツキ、 つまり生産の途中で起こるさまざまな 不測事態である。 多くの工場は自動化が進み、 コンピュータ管理がされているので すべてが計画どおりに進むと思われるが、 現実にはさまざまなトラブルが 常に起きていて生産は計画どおりには 進まない。 このようなボトルネックと 統計的バラツキという、 工場が本来抱えている問題を さらに増幅させるのが、 従来の経理システムから導かれた 評価指標である。 従来の経理システムでは、 工場全体の能率は個別工程の生産性の 緩和であると仮定し、 個別工程の生産性を上げるように仕向ける。 ボトルネックがあるにもかかわらず、 工場中のあらゆる機械を目いっぱい 働かせようとすると、 結局のところ工場内の在庫が どんどん増えるだけで、 工場としてのアウトプットは増えない。 しかし経理部門は、 在庫は工場全体として評価して、 それを減らすように圧力をかけるので 工場長としては まったく矛盾したことを 言われていることになる。 TOCが主張しているのは、 このような従来の経理システムが TOCのような全体改善手法の 妨げになっているということである。 TOCの基本原理は、 第一に工場全体のアウトプットを 上げるためには、 ボトルネック工程のアウトプットを 最大限にするように工場内の改善努力を そこに集中させることだ。 このボトルネックに集中する ということは、 われわれにフォーカスすることの 重要性を教えてくれる。 経営者は、 経営結果に最も影響が出る項目に 自らの関心を集中させれば、 最小限の努力で最大の効果を 出すことができる。 それと同様に工場内では、 工場の経営結果に最も影響が出る ボトルネックに全員の関心を 集中させれば、いままでより 少ない努力ではるかに大きな 効果が出せるということになる。 TOCの第二の原理は、 ボトルネック以外の工程では、 ボトルネック工程より 速くモノを作っては いけないということだ。 どうせ工場全体のアウトプットが ボトルネック工程の能力で 制約されるのであれば、 ボトルネック以外の工程は ボトルネック工程と同じペースで (つまりフル操業せずに)動かす。 こうすれば工程の間に余計な 在庫ができないので、 製造期間は非常に短くなり、 顧客から受けた注文を確実に短期間で 納めることができるようになる。 ただし、TOCでは工場全体の在庫を ゼロにするのではなく、 ボトルネックの前には適切な在庫を 置くべきだと考える。 これは、工場のなかの加工時間には 統計的バラツキがあるため、 仮にボトルネック工程前に在庫がなく、 その前工程のどこかでトラブルが起こって 加工時間が余分にかかると、 ボトルネック工程が加工を 開始しようとした際に 加工すべき製品(部品)がなくなるからだ。 ボトルネック工程が少しでも 仕事がないために動かないと、 工場全体が停止したのと同じことになる。 これによって失われた アウトプットは永久に取り戻せない。 これを防ぐための在庫(バッファー)を ボトルネック工程の前に置く。 つまり、TOCでは在庫を 最小限にするというのは あくまでもアウトプットを 最大限にするという 範囲内で行うべきであり、 それ以上でもそれ以下でも 在庫を持ってはいけない。 工場内に在庫をどれだけ 持つべきかということは、 工場関係者を長年悩ませてきた問題である。 在庫が多いと製造期間が長くなり、 品質が下がり、工場の生産性が低下 することは広く知られてきた。 しかし、工場内の在庫をゼロにすると 各工程の統計的バラツキのおかげで 多くの工程で手空き (つまり人や機械が仕事がなくなる) 状態が生じて、工場としてのアウトプットが 低下してしまう。 そこで大部分の工場では、 最低でもすべての工程で 手空きが生じない程度の 在庫を持って運用していた。 しかしTOCでは、 ボトルネック工程の前にある在庫以外の在庫は 工場全体のアウトプット増大に貢献しないので なくしてしまえばよいという、 このジレンマに対する実に鮮やかな 解決法を提示した。 TOCの原理は、 システムレベルの改善手法であるので、 システムの範囲を広げていけば、 生産現場だけに限らず サプライチェーン全体とか、 企業全体にも容易に適用できる。 たとえば工場という範囲で考えれば、 工場内のボトルネックを 改めればいいことになるが、 サプライチェーン上流の部品メーカーが ボトルネックであることも少なくない。 多くの工場では部品メーカーが ボトルネックになっているので、 サプライチェーン全体を見なければ 問題が解決できなくなっている。 TOCは企業だけではなく、 フリーランサーやビジネスパーソンにも 応用できるのでぜひ活用してほしい。