◆非正規化する生活保護行政の面接相談員 彼女は生活保護の相談を3年半で1000ケース受け持ち、 一つ一つの相談に自立に向けたプランを組み立て、 相談者の約6割を生活保護による支援に回したほか、 最も適した支援部署へとつなげてきた。 生活保護の申請窓口に彼女のような 非正規公務員を配置するという事例は、 生活保護の受給者が急拡大している都市部を中心に 頻発している。 ハローワークに行けば、 非正規の生活保護面接相談者の求人票が溢れている。 埼玉県朝霞市の生活保護面接相談員は、 1日7時間、週4日勤務、 日額1万3000円(社会保険料含む)の非常勤勤務。 どの求人票も、 社会福祉士又は社会福祉主事資格を有し、 生活保護の面接相談経験があることを 応募要件としている。 つまり生活保護面接相談員という仕事は、 一定の資格と経験を要する仕事なのだ。 ◆生活保護を受給して教壇に立つ非常勤講師 さいたま市の小学校で、病欠や欠員補充等の 非常勤講師として働いてきた50歳代の女性は、 時給は1,210円で、1日5時間、週5日勤務するが、 月収は手取りでわずか11万円。 夏休みなどの休暇期間は収入がなくなるため 学童保育で働き、 週末にはスーパーの試食販売でアルバイトをしてきた。 しかし、疲労で授業に集中できなくなり、 月5万円前後の生活保護を受給し、 教員を続けてきた。 同じ質量の職務でありながら、 有期や無期かの差異だけで正規教員の 5~6割程度という処遇格差は、 明らかに不合理な労働条件に該当する。 そしてこのような教員における格差と貧困の放置は、 供給される教育の質の劣化に直結する。 ◆進む教員の非正規化と雇用劣化 本給は20万円強。 これに残業代に代替する教職調整額は 扶養手当などの手当が支給され、 ここから公租公課が控除され手取りで19万円強。 ボーナスに該当する期末勤務手当が 年2回支給されて年間所得は約250万円となる。 これが正規教員として4年間、 臨時教員として10年以上勤務してきた 彼女の全収入である。 他に収入を得るための仕事に出向く時間的余裕はない。 なによりも公務員であるために、 兼職制限が掛けられ、 臨時職員として働いて得られる所得がすべてである。 だがこの金額は、 彼女が住居する市の就学援助制度の認定基準 (親子3人世帯で年間所得基準約262万円) 未満である。 彼女が臨時職員としてクラス担任を務めて 得られる所得は、市によって、生活保護受給世帯に 準ずるほどの低収入だと認定された。 ◆ハローワークの非正規相談員には、 笑えないブラックジョークのトラップが 仕掛けられている。 マクロでみれば、 仕事を頑張って失業者を減らすと 自分の職がなくなるのであり、 一つの職場というミクロの場でみると、 非正規相談員は能力と実績を高めれば高めるほど、 正規との間の上下身分関係と相容れない存在となり、 雇い止めの圧力が高まるのである。 ◆笑えないブラックジョーク ハローワークで求職するハローワーク職員 ハローワークのカウンターの向こう側で、 求職者の相談にのっていた非正規相談員の彼女は、 翌日、カウンターのこちら側で失業者となって、 向こう側の非正規相談員に求職相談する。 こんなブラックジョークのようなことが 本当に起こっている。 ハローワークに勤務する職員の6割は 有期雇用の非正規公務員で、 毎年、何人もの非正規相談員が雇用を更新されずに 雇い止めされている。 ◆能力がないから正規になれないのではない。 正規職がないから正規職になれない。 「剥奪」状況におかれる非正規公務員のほとんどが 女性であるという事実を踏まえると、 女性活躍という政策は絵空事だったということが よくわかる。 何しろ日本は、 女性を正規で雇わない国家なのだから。 ◆専門知を高めてもレスペクトされない 公務職場という環境のもとで 「正規にならなかったのはあなた自身のせい」 というまなざしや取り扱いは、 非正規公務員を「剥奪」状況に陥らせる。 ◆2020年の総務省調査によれば、 地方自治体に勤務する非正規公務員は約112万人。 この人数に基づき計算される非正規率は29%。 全国のすべての地方公務員の3人に1人は 非正規公務員である。 このうち住民に身近な市区町村の非正規率は44.1%、 もはや公務員は安定した職業ではない。