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父が娘に語る経済の話〔1〕なぜ、こんなに「格差」があるのか?【ヤニス・バルファキス】



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父が娘に語る経済の話〔その1〕

◆なぜ、アボリジニがイギリスを
侵略しなかったのか?

どうしてオーストラリアを侵略したのは
イギリス人だったのか?

アボリジニ(オーストラリアの先住民)の土地を
略奪し、先住民を排除したのはイギリス人だが、
どうして逆じゃなかったのか?

アボリジニの兵士がドーバーに上陸し、
またたく間にロンドンに進軍して、
女王と抵抗するイギリス人を
皆殺しにしなかったのはなぜだろう?

もう少し大きく捉えて、
帝国主義の超大国が
ユーラシア大陸に集中していたのはなぜだろう?

アフリカやオーストラリアで、
そんな国がひとつとして生まれなかったのは
どうしてだろう?

遺伝子の問題?

そんなはずはない。

農作物の余剰によって、
文字が生まれ、債務と通貨と国家が生まれた。

それらによる経済からテクノロジーと軍隊が生まれた。

つまり、ユーラシア大陸の土地と気候が
農耕と余剰を生み出し、
余剰がその他のさまざまなものを生み出し、
国家の支配者が軍隊を持ち、
武器を装備できるようになった。

そのうえ、
侵略者は自分たちの呼吸や身体をとおして
ウィルスや細菌も兵器として使うことができた。

だが、オーストラリアのような場所では、
余剰は生まれなかった。

まず、オーストラリアでは
自然の食べ物に事欠くことがなかったからだ。

300万人から400万人が
ヨーロッパ並の広さの国土に自然に共生し、
人々は土地の恵みを独り占めできた。

だから農耕技術を発明しなくても生きていけたし、
余剰を貯め込む必要もなかった。

テクノロジーがなくても
豊かな暮らしができたのだ。

逆に、気候に恵まれないイギリスでは、
大量に作物の余剰を貯めないと、
生きていけなかった。

航海技術や生物兵器も、
余剰から生み出された。

そうやって、
はるばるオーストラリアまでたどりついた
イギリス人にアボリジニがかなうはずがなかった。

だから、
オーストラリアがイギリス人の植民地になったのは、
もとをたどると地理的な環境が理由だった。

DNAや、性格や、知性とは何の関係もない。

大陸の形と場所がすべてを決めたとも言える。

しかし、地理では説明できない格差もある。

このタイプの格差を理解するには、
経済について理解しなければいけない。

余剰を蓄積するには、
権力の集中が必要で、
権力が集中するとさらに余剰が蓄積され、
富が支配者に偏っていった。

それが、「寡頭制かとうせい」だ。

「寡頭制」という言葉は、
もともとギリシャ語の「少数の」と「支配する」
という言葉を組み合わせたものだ。

蓄積した余剰を独り占めできると支配階級が、
さらに経済や政治の権力を持ち、
文化的にも力を持つようになる。

その力を使ってさらに大きな余剰を
独り占めするようになる。

たとえば、数百万ドルがすでに手元にあれば、
さらに100万ドルを稼ぐのは比較的簡単だ。

しかし、何も持たない人にとって、
100万ドルなんて手の届かない夢だろう。

このように格差はふたつの形で拡大していった。

ひとつは、グローバルな格差だ。

これによって、
一部の国は20世紀や21世紀になっても
極度の貧困に苦しみ続け、
一部の国はありあまるほどの
力と富を享受している。

そして豊かな国は、
しばしば、より貧しい国から
奪い続けることによって
その地位を安泰にしている。

もうひとつは、
それぞれの社会の中での格差だ。

貧しい国でも一握りの金持ちは、
豊かな国の金持ちよりも
金持ちということすらある。

どちらの格差も、
もとをただせば経済的な余剰に行きつく。

その余剰は、
農耕という人類初のテクノロジー革命
から生まれたものだった。

この革命は蒸気機関やコンピュータ
といった機械をもたらし、
それまでにないほどの
ものすごい格差を持つ社会を生み出した。

つまり、我々が育ってきたいまの社会だ。

赤ちゃんはみんな裸で生まれてくる。

高価なベビー服で着せられた赤ちゃんがいる一方で、
お腹を空かせ、すべてを奪われ、
惨めに生きるしかない赤ちゃんもいる。

それは赤ちゃんのせいでなく、
社会のせいだ。

◆なぜ、こんなに「格差」があるのか?
(答えは1万年以上前にさかのぼる)

赤ちゃんはみんな裸で生まれてくる。

素敵な肌着を着せてもらえる赤ちゃんがいる一方で、
多くの赤ちゃんはボロを着せられている。

そんな格差が存在するのが、いまの世界だ。

◆私たちの人生を支配している
資本主義という怪物と
うまく共存することができなければ、
結局は何もかも意味をなさなくなってしまう。

◆景気の波は私たちの生活を左右する。

市場の力が民主主義を脅かすこともある。

経済が私たちの魂の奥に入り込み、
夢と希望を生みだしてくれることもある。

専門家に経済をゆだねることは、
自分にとって大切な判断を
すべて他人にまかせてしまうことにほかならない。