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裏道を行け ディストピア世界をHACKする [3]【橘 玲】



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◆膨大なデータから市場の歪みを発見し、
エッジがある(統計的に勝率が上回る)状況で
正しく賭け金を積まない限り、
投資家は手数料コストの分だけ損をしてしまう。

短期トレードでこれを繰り返せば、
損失が累積して手持ち資金を全て失ってしまう。

一般の投資家がこの罠を避ける方法は、
「手数料コストをできる限り払わない」しかない。

これが、インデックスファンドと長期投資の
組み合わせが有利な理由だ。

この投資が長期的には最も高い確率で
報われることになるはずだ。

「ラスベガスとウォール街を制した男」
ソープはこう言っている。

日本ならNISAやiDeCoのような非課税口座で
投資している人や財団などは、
株式に投資するなら
アクティブ運用からノーロード(販売手数料なし)
で幅広く投資を行うインデックスファンドに
乗り換えた方が良いかもしれない。

アクティブ運用で行くなら、
それで大きなエッジが得られると
考えていい強力な根拠が必要だ。

だいたいみんな、
インデックスファンドにしておいた方が
いいということだ。

「もっとも賢い億万長者」である
ジェイムズ・サイモンはこう言っている。

「できるだけ賢い人、
出来れば自分より賢い人と仕事をせよ。
・・・簡単に諦めずにやり通せ。」

◆株式市場の錬金術

ルネサンス・テクノロジーの「天才」たちが
行ったのは、
簡単に言うならば、
金融市場から「人間の愚かさ」を抽出し、
それを富に変えることだった。

しかしこの「錬金術」は、
数学や物理学、統計学の高度な知識を
持っている者にしかできないわけではない。

人間の欲望と愚かさが金融市場に歪み(収益機会)を
生み出すことはずっと前から知られていた。

市場は人間の欲望の反映なのだから、
そこには常にゆがみがある。

それこそが、
合理的な投資家にとって収益の源泉なのだ。

◆「人間の愚かさ」が利益を生む

投資家が完全に合理的ならば、
効率的市場仮説の信奉者が主張するように、
金融市場の歪みは瞬時に解消され、
ヘッジファンドの収益機会もなくなる。

それにもかかわらず、
ヘッジファンドが莫大な収益を上げているという事実が、
市場には理論よりもはるかに多くの
歪みがあることを示している。

なぜなら、人間はほとんどの場合、
合理的には選択・行動しないから。

アノマリーというのは、
要するに「人間の愚かさ」のことだ。

ルネサンス・テクノロジーの数学者や物理学者は当初、
その歪みから利益を得るプログラムを
自分たちで組んでいたが、
やがて「機械」がすべて行うまでに進化した。

それが「人間の愚かさ」を発見する、
アルゴリズムである以上、
愚かさの象徴である金融危機で
莫大な利益をあげたのも当然だった。

◆サイモンズがなぜ
ブラウンとマーサーの研究に興味を持ったかというと、
人間が話す自然言語には多くのノイズがあり、
コンピューターにそれを正しく読み取らせるには、
どれが必要な情報で、
どれがノイズなのかを高精度で
判別しなければならないからだ。

この課題は、
株式市場の膨大なデータの中から
正しいシグナルとノイズを判別するという、
当時のメダリオンが抱えていた問題と
とてもよく似ていた。

ルネサンス・テクノロジーに加わった
ブラウンとマーサーは、
見事にこの難題を解決し、
株式市場からビッグデータを吸い上げ、
自ら学習し順応するアルゴリズムが完成した。

これによって、
サイモンズが夢みていた
「寝ている間に稼いでくれる」モデルが
現実のものになったのだ。

◆アノマリーを探せ

サイモンズが目指したのは、
市場の動向を読んで
人間が投資判断をするのではなく、
コンピューターのアルゴリズムが
自動的に取引指示を出し、
寝ている間に稼いでくれるモデルを作ることだった。

サイモンズは、
市場が効率的だという前提に疑いを持った。

データを分析すると、
「金曜日と同じ値動きが翌週月曜日も続き、
火曜日になると以前のトレンドに回帰する」
という傾向が見つかった。

前日の取引から翌日の値動きを
予測できるのは「24時間効果」、
はっきりとした上昇トレンドがあれば、
金曜の終値で買って月曜の始値で売ると
儲かるのは「週末効果」と名付けられた。

これはフロアトレーダーが、
週末に悪いニュースが起こって
損失を負うことを嫌って、
金曜に一旦ポジションを清算するからだとされた。

もっとも、
サイモンズにとっては「なぜそうなるか」
の理由はどうでもよかった。

再現可能なアノマリー(市場の歪み)
を見つけさえすれば、
それだけで儲かるのだ。

ちなみに、一人ヘッジファンドの
山本(仮名)さんの戦略も同じで、
稼働していた4本のプログラムの1つは、
日本の商品市場の板寄せ(始値の算出方法)
の特殊性を利用し、
前日の終値で売り、
翌日の始値で買うというシンプルな戦略だった。