ヘーゲルは、 「家族は感情で結ばれた共同体」と呼んだ。 愛情で結ばれた家族関係は、 利害で結びつく社会関係や、 楽しさで結びつく友人関係とは、 少し質が異なる。 幼い頃、 親子は感情的な絆でむすばれている。 しかし、 子どもの成長に従い、 親離れ・子離れしなければならなくなる。 ところが最近では、 親と成長した子どもが適切な距離感を 保つのが難しくなっている。 理由のひとつとして挙げられるのは、 世代間の価値観の食い違いだ。 子ども世代において、 親世代の持つ「家族道徳」という価値観が、 ほとんど消えてしまった。 「親孝行はするものだ」 「親の言うことには従うべきだ」 などの「~するものだ」という 価値観が姿を消し、 それまでふたをされていた 親子の対立が表面化し、 歯止めがきかなくなってしまった。 親が重視する、 個々の主体性が実現されない 「家族」の道徳と、 子どもが大切にする「個人」の自由を 共存させるためには、 それぞれのよさを併せ持つ、 新しい関係性をお互いに模索する必要がある。 旧来の道徳観を、 今さら子ども世代が納得することは難しい。 親子がひとりの人間として認め合い、 改めてそれぞれの生き方を肯定し合うことから スタートするしか、 対立を解決する道はないのかもしれない。