◆粉ひきの親子とロバ (あらすじ) 年寄りの粉ひきと彼の息子が、 市場にロバを売りに行く途中のお話。 ロバを高く売るには、 ロバを疲れさせないに限ると考えた父親は、 ロバの四本の足をひもでしばって棒にくくりつけた。 そしてロバをぶら下げた重い棒を、 息子と二人でかつぎながら歩いていた。 すると親子に最初に出会った人たちが、 彼らの姿を見てゲラゲラ笑いながら、 バカにしてこういった。 「ものごとを知らないにもほどがある。 あの三匹のうち、 ロバが一番ロバらしくないじゃないか」 それを聞いた粉ひきの父親は自らの無知をさとり、 息子をロバに乗せることにした。 そして父親は、 息子を乗せたロバのあとから歩いてついて行った。 すると今度は、三人の商人たちとすれちがった。 彼らの一人が、息子に向かって大声でこう言った。 「おい、こら、おりなさい。 年寄りを歩かせ、 若い者がロバに乗るとはけしからん。 若者はあとから歩いて、 年寄りの父親をロバに乗せるものだぞ」 それを聞いた粉ひきはお説ごもっとも、 息子をロバからおろして自分が乗った。 すると今度は、三人の娘さんたちとすれちがった。 そして、三人のうちの一人がこう言った。 「見ちゃいられないわ。 息子があんなに足を引きずりながら 歩いているというのに、 あの年寄ときたら偉そうに、 ロバの上にふんぞりかえっているなんて」 娘さんたちに、 さんざんあざけりの言葉を浴びせられた父親は、 深く反省した。 そして彼は息子を、 自分のうしろに乗せることにした。 それからしばらく行くと彼らは、 第四のグループとすれちがった。 すると、またもや彼らはこういってケチをつけた。 「見てみろよ、あのロバを。 二人も乗せて歩いているものだから、 すっかり参って死にそうじゃないか。 なんたることだ、 一生懸命に働いてくれたロバを あんなつらい目にあわせるなんて。 あの連中は市場に、 ロバの皮だけ売りに行くつもりらしいな」 それを聞いて粉ひきと息子は、 ロバから降りて歩いた。 それでもやはりすれちがう人は、 こういうではありませんか。 「ロバが気楽に歩き、 粉ひき父子が苦労する。 これが今の流行なのかね、まったく。 自分たちの靴の底を減らしてまで、 ロバを大切にするとわね。 まるでロバ三匹みたいじゃないか」 そこで粉ひきは、こう考えた。 「どうせわしはロバですよ。 だが、これからはどんなに悪口をいわれようと、 人からなんと言われようと、 わしは自分の思い通りにする」 人のいうことに一喜一憂するのはよそう。 自分の考えで行動し、 自分のしたことは 自分で責任をとるという姿勢が大事。 フランスのテレビには、 日本のワイドショーに四敵する番組がない。 芸能人のゴシップをのせた雑誌も ないわけではないが、 だれが買うのか、キオスクの人目につかない隅に ひっそり置かれている。 奥さんたちが集まった席で、 タレントのプライバシーが語られることなど、 あるはずがない。 かといってフランス人がその手の話にまったく 興味がないかといえばうそで、 人気キャスターがこっそり子どもを生んだとか、 有名人がどこに住んでいるとか、 知っている人は多い。 ただ、どんなにヒマな人たちが集まったとしても、 芸能ネタは出ない。 見ず知らずの芸能人のスキャンダルより、 自分たちが当面する問題のほうが重要だからだ。 フランス人のスキャンダルやゴシップへの さめたまなざしは、 実は幼少期に培われている。 子ども時代に読んだ寓話「粉ひきの親子とロバ」 のお話が、それである。