◆どれほど素晴らしい遺伝子の持ち主で、 きちんと育てられ、ストレスと上手に付き合い、 しっかり運動し、正しい地中海式の食事だけを とっていたとしても、 人間は200年も300年も生きることはできない。 それほど長生きする人間がいないのはなぜか? 理由ははっきりわからないが、 進化の過程であらゆる動物には種ごとに一定の寿命が 定められているのではないだろうか。 人間も例外ではない。 ホモ・サピエンスの寿命の限界は110歳から120歳 あたりのように思われる。 150年も200年も生きる人間はいない。 つまり、本気で人間の寿命を大幅に延ばしたければ、 誰かがどうにかして変数β(※)を変えるしかない。 それが究極の問題を解決できる唯一の方法 ということになる。 ※年齢の死亡率の関係を数式で表したゴンペルツの法則 方程式を書くと、 H(t)=αeβt + γ のようになる。 式の「H(t)」は、時間tが経ったときに 死ぬ人間の割合を表している。 式で使われるα、β、γは 極めて重要な意味を持つ変数で、 式の右側はどのような割合で すべての死がもたらされるかを説明している。 αは、一人一人の人間に配られた遺伝子のカードと 個人の経験(ストレス、食生活、医療、運動、 経済状態、社会的地位など) が合わさったものを表している。 αは、これらの変動因子によって決まり、 人によって異なる。 γは偶然に起こる、命に関わる出来事 (自動車事故、洪水、殺人など)を表す。 βは、個人の経験に関係なく、 人類全体に影響する普遍的な力を意味する。 ◆最近になって、 ようやく主流派の研究者たちが 複雑な問題に取り組み始めた。 正直に言えば、 老化とは何なのかを本当に理解している人間はいない。 病気なのか。 いくつかの病気が重なっているのか。 光より速く移動することができないのと同じような、 自然の動かぬ掟なのだろうか。 老化は、 古くなった機械のように、 年を経るごとに体の細胞が壊れていくという 単純な話ではないと研究者たちは考えている。 そう、太陽からやってくる放射線や 飲食物に含まれている化学物質、 身体・精神的なストレス、悪玉酸素(フリーラジカル) のようなそこら中にいる悪者の手によって、 毎秒のように全身のDNAにダメージを与える残酷な ハンマーが振り下ろされているのだ。 だが、まだ話は半分しか終わっていない。 進化によって驚くほど能力を高められた分子システムが このダメージを修復し、体は問題なく機能し続ける。 しかし、年を取ると、 この修復メカニズムそのものがうまく働かなくなり、 破壊工作が加速する。 ◆老化が体の自然な営みだということは周知の事実だ。 まともな医師なら、 老化を阻止する方法を本気で考えようとは 思わないだろう。 結局のところ 橋も、道路も、機械も、イヌも、ネコも、 山や谷さえも、形あるものはいつか壊れる。 それが自然の摂理だ。 偉大なる命の輪。 人間も例外ではない。