◆年金【1】 世の中には他人の不安をネタに 商売している人がたくさんいる。 恐怖に怯える人は、 そこから逃れるために喜んで金を払うからだ。 不景気の日本で急成長を続ける業種の一つは 間違いなく不安産業だ。 この有望市場に参入する業者も、 保険会社、不動産会社、健康産業からマルチ商法、 新興宗教まで多種多様だ。 不安産業が高成長を遂げたのは 日本国政府の強力な支援を受けているからである。 政府は年金問題をいつまでも解決しないことで 国民を疑心暗鬼に陥れ、 不安産業の業者に多大な収益機会を提供している。 不安を売る商人は、 あなたの耳元で甘く囁く。 日本の財政は破綻して老後に年金は もらえる保証はありません。 だから「自分年金」をつくりましょう。 銀行にお金を預けても利息なんてつきません。 だったら、もっと儲かる投資をしませんか? 彼らの最大の商売道具は財政赤字と超低金利政策だ。 日本国の財政破綻が騒がれれば騒がれるほど、 彼らの懐には金が転がり込んでくる。 この「神風」で、 濡れ手で粟の大儲けをした業者も少なくない。 少子高齢化と運用利回りの悪化によって、 日本の公的年金制度は大きく揺らいている。 税金の投入、保険料の値上げ、 給付額の大幅な引き下げを実施しなければ、 制度を維持することは不可能だ。 人々の不安の源泉は、ここにある。 今の日本では、高齢者が満足な職を得るのは難しい。 年を経るごとに人生の選択肢は狭まっていく。 年金だけを生活の支えにする人にとって、 それを奪われることほど恐ろしいことはない。 そこで、不安産業のセールスマンは言う。 日本人の平均寿命はまだ延びています。 医療費だって馬鹿になりません。 将来のインフレも考えれば、 安心して老後を過ごすには、 少なくとも1億円の貯蓄が必要です。 どうです? ちゃんと準備できていますか? もちろん、準備などできているはずがない。 そこで業者の提案する高利回り商品にすがり、 大損したり、有り金をすべて巻き上げられたりする。 不安ビジネスの黄金時代はまだまだ続くのだ。