◆やるべきことに徹する 坐るときは坐るに徹する、 行くときは行く。 黙っているか喋っているか、 動いているか止まっているか、 その一つとして大事でないものはない。 心刀の切れ味もまた煩脳ぼんのうに とりつかれると鈍くなってしまうものだ。 ◆守りをしっかり固める 自分を守ることを忘れて 相手を討つことばかりを考えて勇んでいるときには、 得てして大敗をきするものである。 人間には敵対する相手を やっつけたいという気持ちがある。 「攻撃は最大の防御なり」 という言葉もあるが、 自分のことはよく見えなくても 相手はよく見えるから、 どうしても相手をなんとかしようと考える。 しかし、我が身をきちんと調えておかないと、 結局、隙を突かれて負けてしまうことになる。 事業だってそうだろう。 中核となる事業が確立されていないのに、 あれこれ手を出してもうまくいくはずがない。 ◆清く静かな心を養う 「敵をただ打とう思うな身を守れ、 をのづからもる賤しずが家やの月」 相手を打つことばかり考えずに、 きちんと自分の心を調えることを 忘れてはいけない。 明鏡止水めいきょうしすいの心境に至れば、 自然と相手の弱点は見えてくるものだ。 打とう打とうと思うと隙が出るというのは、 儲けよう儲けようと思っていると 儲からないのと似ているかもしれない。 鉄舟先生は禅の上で悟りを開いたときに 「無敵の境地に達した」と言っているが、 そのきっかけをつくったのは 平沼専蔵ひらぬま せんぞうという弟子の実業家だった。 この人は平沼銀行という 銀行をつくったほどの実業家だが、 鉄舟先生のところへ来て、 相場が上がったり下がったりするのを 気にしていると商売にならない、 これと心を決めていくことが必要だ という話をしている。 その話からふっと思うところがあって、 このような歌を詠んだようだ。 清く静かな心でいれば、 相手の隙が心の鏡に映る。 そこを打てば自から勝ちにつながるということだ。