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人生心得帖 [3] 【松下幸之助】



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◆よき人生とは

人生とは生産と消費の営みである。

日々、物心ともによき生産とよき
消費を心がけることが、
充実した人生に結びつく。

人生というと一般には、
いわゆる人間の一生、
つまり生まれてから死ぬまでのあいだの
ことと受け取られていますが、
それは細かく見れば、
1日1日、一刻一刻の日常生活の積み重ねであるとも
考えられる。

したがって、私たちの日常生活をありのままに
よく考察するならば、
それによっても人生の何たるかをつかむことができる。

そういう観点から、
「人生とは、生産と消費の営みである」
と考えることができる。

ここでいう生産と消費とは、
単に物を生産し消費するということではない。

もっと広く、
人間の心の営み、
精神的な活動をも含んだ、
物心両面にわたる生産であり消費のことである。

そう考えれば、
私したちが、よき人生、意義ある人生を送るためには、
その物心両面の生産と消費とを、
きのうよりきょう、きょうよりあすへと、
好ましい姿で実践していことが大切、
ということになる。

◆「生きがい」ということ

仕事は人生において非常に重要な位置を締めている。

その仕事に生きがいを見いだせるか、
そこに幸せな人生へのカギが隠されている。

生きがいというものは、
人それぞれにいろいろあると思う、
またいろいろあっていい。

生きがいというものは、
決して終始一貫して同じというわけではなく、
その時々でいろいろ変わっていい。

仕事は、お互いの人生において、
時間的にも経済的にもきわめて
重要な位置を占めている。

そうしてみると、
生きがいは多様であっていいとはいうものの、
自分の仕事に生きがいが
感じられるかどうかということは、
お互いの人生において、場合によっては、
その幸不幸を左右するほどの
大きな意味を持っていると考えられる。

したがって、趣味を楽しむことも、
家庭を大切にすることも、
その他いろいろな面で生活内容を
多彩にしていくことも、
それぞれに意義深く大切なことだとは思いますが、
その中心にというか、その根底に、
仕事に打ち込み、仕事に喜びと生きがいと
感じられるということが
やはりなければならないような気がする。

むろん、仕事だけが生きがいであるべきだ、
などとは考えませんが、
少なくとも仕事も
ひとつの大きな生きがいであることが、
お互いの人生をより充実した
幸せなものにしていく上で
望ましいと思う。

◆人生を生ききる

今という時は、
その瞬間しかない。

その一瞬一瞬をせいいっぱい生きる積み重ねが、
充実した人生をつくり、
若さを生み出すのである。

「60, 70は鼻垂れ小僧、男盛りは100から」
という言葉がある。

これは、彫刻家の平櫛田中ひらくしでんちゅうさんの言葉である。

平櫛さんは、108歳の誕生日を目前に亡くなられた。

しかし、最後の最後まで仕事への情熱、
意欲をもち続けた。

生命を燃焼し尽くした人である。

100歳を超えても元気で若々しかったのは、
自分のなすべきことに向かって、
「今やらねばいつできる。
おれがやらねばだれがやる」と、
今という一瞬一瞬を
せいいっぱい生きておられたからだと思う。

◆自己観照じこかんしょう

自分の適正や力を正しくつかもう。

そのためには、
自分を、他人と接するような態度で、
外から冷静に観察してみることである。

お互いが充実した人生を送るために
忘れてはならないことの
ひとつとして、自分自身をよく知るというか、
自分がもっている特質や適性、力などを正しくつかむ、
ということがある。

「自己観照じこかんしょう」とはどういうことかというと、
自分で自分を、あたかも他人に接するような態度で
外から冷静に観察してみる、
ということ。

言い換えると、
自分の心をいったん自分の外へ出して、
その出した心で自分自身を眺めてみる。

これをすれば、
比較的正しく自分がつかめる。

昔からよく「山に入る者は山も見ず」という。

つまり、富士山に登っている人には、
あの秀麗な富士山の全体像は見えず、
穴ぼこや石ころばかりが目につく。

やはりいったん山から離れて、
遠くから眺めてみるときに、
全体の姿がはっきりと目に映る。

お互いが自分を知ろうという場合も、
同じことではないだろうか。

◆続けること、辛抱すること

成功とは成功するまで続けること。

辛抱して根気よく努力を続けているうちに、
周囲の情勢も変わって、
成功への道がひらけてくる。

やることなすことが裏目にばかり出る。

懸命に努力しているのに、
どうもうまくいかない。

そのような状況に陥って頭を悩ますことが、
長い人生にはときにある。

そんなときに大事なのは、
やはり志を失わず地道な努力を続けること。

およそ物事というのは、
すぐにうまくいくということは
めったにあるものではない。

根気よく辛抱強く、
地道な努力をたゆまず続けていくことによって、
はじめてそれなりの成果があがるものだ。

道にかなったことである限りは、
ひとたび志を立てた以上、
最後の最後まであきらめない。

成功とは成功するまで続けることである、
ということを、お互い常に心にとどめて、
何事にも取り組んでいきたいものである。

◆悩みの解消

お互い人間には、
本来悩みはないものである。

もし悩みがあるとすれば、
自分がとらわれた見方をしているからだ。

悩みというものは、
物事の一面のみを見て、
それにとらわれてしまっているところから
生まれている場合が多い。

たとえば、あなたが経営者だとする。

今、日本に悪いことをする人が何人ぐらいいるか?

法を犯して刑務所に入っている人が
仮りに10万人とすれば、
刑法にふれないけれど軽い罪を犯して
見逃されている人は、
おそらくその何倍もいるだろう。

ところが、
そのような人たちは別に日本から追放されてはいない。

それが現実の日本の姿である。

だとすれば、
その中にあっていい人だけを使って
仕事をするというのは、
虫がよすぎる。

そう考えると、
悩みがスーッと楽になる。

そして、その人を許す気になる。

日々、悩み、不安を感じつつも、
厳然としてこれに取り組み、
そこからひとつの見方にとらわれずに
いろいろな考えを生み出すように努めていく。

そうすればものの見方には色々あって、
一見マイナスに見えることにも
それなりのプラスがあるというのが世の常の姿なので、
そこに悩みや不安を抜け出し克服していく道も開ける。

つまり、それらが悩みや不安ではなくなって、
ことごとく自分の人生の糧として
役立つという姿が生まれてくる。

そのようなことから、
お互い人間には、本来、悩みなどない、
と考えるべきではないか。