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武器になる哲学〔2〕マタイ効果【山口周】



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◆マタイ効果【ロバート・キング・マートン】

多くの人が実践して「いない」にもかかわらず、
確実に子供の成績や運動能力が高まる産み方がある。

それは、子供を4月に産む、ということ。

日本のプロ野球選手やJリーグの選手の誕生月は、
4月や5月などの「年度の前半に近い月」
の生まれが多い。

例えば、プロ野球選手の場合、
12球団への登録選手809人のうち、
4月~6月生まれの選手は248人で
全体の約31%となっている一方、
1月~3月生まれは131人で16%しかいない。

これはJリーグも同様である。

人口統計的には、
誕生月による人口の差は
ほとんどないことがわかっていて、
月別の出現率は8.3%、四半期では25%となっている。

したがって、
プロ野球・Jリーグともに4月~6月生まれの
登録選手が31~33%になっているという事実は、
確実に「何かが起きている」ことを示唆している。

さらに、勉強についても、
「デキル子」は4月~6月生まれが
多いことがわかっている。

これらの理由は「マタイ効果」によって
説明できると考えられる。

ロバート・マートンは、
条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることで
さらに条件に恵まれる、
という「利益-優位性の累積」の
メカニズムの存在を指摘している。

マートンは、新約聖書のマタイ福音書の文言
「おおよそ、持っている人は与えられて、
いよいよ豊かになるが、持っていない人は、
持っているものまでも取り上げられるであろう」
という一節から借用してこのメカニズムを
「マタイ効果」と命名した。

4月生まれは3月生まれよりスポーツも勉強もできる、
という統計的事実と、
その要因に対してマートンが唱えた仮説は、
組織における「学習機会のあり方」について
私たちに大きな反省材料を与えてくれる。

私たちは常に「飲み込みの早い子」をでる一方
なかなか立ち上がらない子を
ごく短い期間で見限ってしまうという、
とても良くない癖を持っている。

なぜそういうことが起こるかというと、
教育のためのコストが無限でないからである。

私たちは「より費用対効果の高い子」に
教育投資を傾斜配分してしまう傾向があり、
そのため初期のパフォーマンスの結果によって、
できる子はさらに良い機会が
与えられて教育される結果、
更にパフォーマンスを高める一方、
最初の打席でパフォーマンスを出せなかった子を
ますます苦しい立場に追いやってしまう、
ということをしがちである。

しかし、こういうことを続けていると
「物わかりの早い器用な子」ばかりを
組織内に抱える一方、
噛み砕くのに時間がかかるけれども
本質的にモノゴトを理解しようと努める子
(つまりイノベーションの種子になる
アイデアを出すような人)
を疎外してしまう可能性がある。

そして、そのような「いい子」ばかりになった組織は、
やっぱり中長期的にはもろくなってしまう。

「4月生まれの子は成績もいいしスポーツもできる」
という、発生学から考えればとても不自然な事実は、
私たちに、人を育てるに当って
最初期のパフォーマンスの差異をあまり意識せず、
もう少し長い眼で人の可能性と成長を
考えてあげることが必要だ、
ということを教えてくれる。